スポーツ科学への挑戦

もともと工学部で制御工学を専攻したが,好きなスポーツを通じて生体機能の素晴らしさに興味を持ち,気がつけば生理学研究の道に入っていた.1979年に縁あって大阪大学の故中山昭雄教授の生理学教室で体温調節の解析を始め,以来20年以上それを中心として研究を行なってきた.1994年、大阪大学医学部に新設された保健学科に赴任した.優秀でやる気にあふれたスタッフ、学生達が集まってくれたお陰で大変活気のある研究室となった.特にこの数年間は多くの論文を発表することが出来、私の研究生活での「第一期黄金時代」であったと自負している.しかし、いつも心には、スポーツの研究をいつかはしたい、という夢があった.幸運なことに、2003年4月から新たに発足した早稲田大学スポーツ科学部で仕事をすることとなった.

 現代人が豊かで充実した毎日を送る上でスポーツの重要性はますます高まっている.またトップレベルの選手を頂点とした競技スポーツから市民レベルの生涯スポーツまでのさまざまな場面で、障害の管理やコンディショニングを適切に指導できるハイレベルなトレーナー・研究者が求められている.早稲田大学のスポーツ科学部はこのような時代の要請に応えるべく設立された大変ユニークな学部である.

 さて、ここで何をするかだが、結局今まで通り研究を通して学生達に「生体を考えることの面白さ」を伝えることしか出来ない.研究のテーマは二本立てで、つまり生理機能の表と裏の研究を並行してやってみたい.一つはこれまで行ってきた体温調節など「ホメオスタシス維持に関わる脳機能解析」をさらに発展させること.もう一つはずっとやりたかった「運動制御の神経機構解析」である.しかしどちらが表だろうか?「運動機能」とは「行動」の基礎となるものである.そして「行動」とは本来ホメオスタシスの維持(生命維持)のためにこそあり、そのためにわれわれの祖先は高次脳を含めた複雑なシステムを進化させてきた.つまり高次脳こそがホメオスタシス維持系のバックアップ(裏方)なのである.これは「低次脳」をずっと研究してきたものの、半分ひがみ、半分信念である.

 疾患・障害は正常機能を研究する上で多くの情報を与えてくれる窓となる.同じことがトップアスリートにもあてはまる.スポーツ科学部の学生にはスポーツ各種目の一流選手達がごろごろしている.彼らも平均値をはずれた群である.実際、彼らと話をし、動きを観察すると常人とは違う世界を持っていることが分かって楽しい.「スポーツ科学」の醍醐味はそのような超日常の生体現象を解明することだが、同時にそれは通常の生理現象を考える格好の窓でもある(疾患とは逆の意味で).このようなところから新しい研究のテーマをすくい上げ、「第二期黄金時代」を是非とも実現したいと考えている.