閑話1 : 人と動物の間

わが家には二匹のイヌがいる。子供時代動物を飼った経験のない私は最初は接し方がわからず困った。だが実際に身近にしてみると実に面白い。

最も印象的なのは動物にも感情があること。怒ったり甘えたりはもとより、かなり高級な感情も持っている(にちがいない)。たとえば「嫉妬」。私が一匹と遊んでいるともう一匹が必ず割って入ってくる。特に序列の高い方は本気でもう一匹に噛みつきにかかる。もっといやらしいのは、気に入らずに残したものでも、もう一匹が取ろうとするわてて食べてしまうこと。生き物が行うことの99%は生存に有利にはたらく機能的な意味を持っている。ヒトの心にもある「他人がよい目にあうのは面白くない」、「他人の不幸は蜜の味」といった感情にはいったいどんな機能的意味があるのだろうか? もっともイヌたちの行動は刺激に対する「自動的」な反応で、ヒトの感情とは別だとの議論がある。しかしわれわれの感情とて自動的である。私はパトカーを見ると自動的に「ムカッ」とする。

彼らを見れば見るほどヒトと動物の境界はあいまいになってくる。言葉? 彼らは寝ていても、ヒトの会話の中に自分の名前がはさまれるとムクッと起きあがり、「何?」という顔をする。「さんぽ」、「ごはん」なども決して状況から察するのではなく、単語として理解している。また彼らは言葉を発することもできる。イヌの言葉の翻訳器など難しいことはない。私でも「ワンワン(朝だ、散歩の時間だ)」、「ワンワン(めしをくれ)」、「ワンワン(遊べ)」、「ワンワン(ここはおれの領地だ:他のイヌに向かって)」など難なく分かる。いくら言葉を費やしても結局通じ合えない人間の方が余程難しい。

私はこの4月に大阪からやってきた。彼らが躾のよい関東のイヌ達に向かって吠えている様は大阪弁の人間が声高に話すのとよく似ている。

彼らのおかげで退屈しない毎日だが、残念なのは寿命がわれわれよりずっと短いこと。もっとも彼らにすれば、「そんなに長生きしてどないするン」ということか。

次回は人間科学部の今泉和彦先生にバトンタッチいたします。

(2003年10月30日掲載)